マドンナブルー
「県展」とは略式で、正しくは「宮城県高校美術展示会」である。県内の美術にいそしむ高校生にとっての登竜門であり、美大進学を目標とする学生にとって、この展示会で賞を獲得することが、奨学金をえるための強力な材料となるのだ。
咲羅の高校で入賞したのは、咲羅と梅田の二人である。咲羅は佳作だった。梅田はなんと、最高賞である優秀賞に輝いた。
県展の授賞式が終わり、木枯らしが吹き始めた晩秋事件が起こった。その日は土曜日で、咲羅は自宅で昼食を作っていた。リビングでは、母の晴江がソファに寝転びポテトチップスを食べていた。
「ねえごはんまだできないの?」
咲羅がなかなかほぐれてくれない焼きそばの麺と格闘していると、晴江が不満そうに言ってきた。
「もう少しだから待っててね」
ふたたび晴江は、口にポテチを放り込んだ。そんな姿を、咲羅はあきれて見ていた。休みとはいえジャージ姿でノーメイク。異性の影のない中年女性が寝そべってポテチを食べる姿は、見るに耐えない。
「もうすぐごはんなのにポテチなんか食べて。ママは中年なんだし太るわよ」
「ひどーい!三十七歳はまだ若いわよ!」
「中年だってこと自覚したほうがいいよ。最近ママの下っ腹急に出てきたもん」
「えー!やめてー!」
咲羅は晴江を中年と投げかけ、はっとした。晴江と同年代である安藤も、中年に違いないのだ。そう考えると、やはり自分と安藤とでは不釣合いである。そのことを、咲羅は強く自分に言って聞かせた。そうすることで、自分を納得させようとした。
「ねえ咲羅。咲羅ってば!」
突然晴江の声が、至近距離から聞こえた。はっとすると、彼女は咲羅のすぐ真横に立っていた。ぼんやりとしていたため今まで気づかなかった。
「私、咲羅の名前何度も呼んだのよ。あんたにお客さん」
「え、誰?」
「美奈子ちゃんて言ったっけ」
「美奈子?」
美奈子が今日訪ねてくる理由に心当たりのない咲羅は、なんだか嫌な予感がした。その気持ちを助長させるように、晴江は声をひそめてこう付け加えた。
「すごく様子が変よ。なんかぼろ雑巾みたいだった」
他人の状態を説明するのにぼろ雑巾を引き合わせるとは、あまりに失礼ではないか?しかし憤りは起こらず、ただ強い不安に襲われた。晴江の顔に冗談は見当たらず、大真面目な表情だったからである。
咲羅の高校で入賞したのは、咲羅と梅田の二人である。咲羅は佳作だった。梅田はなんと、最高賞である優秀賞に輝いた。
県展の授賞式が終わり、木枯らしが吹き始めた晩秋事件が起こった。その日は土曜日で、咲羅は自宅で昼食を作っていた。リビングでは、母の晴江がソファに寝転びポテトチップスを食べていた。
「ねえごはんまだできないの?」
咲羅がなかなかほぐれてくれない焼きそばの麺と格闘していると、晴江が不満そうに言ってきた。
「もう少しだから待っててね」
ふたたび晴江は、口にポテチを放り込んだ。そんな姿を、咲羅はあきれて見ていた。休みとはいえジャージ姿でノーメイク。異性の影のない中年女性が寝そべってポテチを食べる姿は、見るに耐えない。
「もうすぐごはんなのにポテチなんか食べて。ママは中年なんだし太るわよ」
「ひどーい!三十七歳はまだ若いわよ!」
「中年だってこと自覚したほうがいいよ。最近ママの下っ腹急に出てきたもん」
「えー!やめてー!」
咲羅は晴江を中年と投げかけ、はっとした。晴江と同年代である安藤も、中年に違いないのだ。そう考えると、やはり自分と安藤とでは不釣合いである。そのことを、咲羅は強く自分に言って聞かせた。そうすることで、自分を納得させようとした。
「ねえ咲羅。咲羅ってば!」
突然晴江の声が、至近距離から聞こえた。はっとすると、彼女は咲羅のすぐ真横に立っていた。ぼんやりとしていたため今まで気づかなかった。
「私、咲羅の名前何度も呼んだのよ。あんたにお客さん」
「え、誰?」
「美奈子ちゃんて言ったっけ」
「美奈子?」
美奈子が今日訪ねてくる理由に心当たりのない咲羅は、なんだか嫌な予感がした。その気持ちを助長させるように、晴江は声をひそめてこう付け加えた。
「すごく様子が変よ。なんかぼろ雑巾みたいだった」
他人の状態を説明するのにぼろ雑巾を引き合わせるとは、あまりに失礼ではないか?しかし憤りは起こらず、ただ強い不安に襲われた。晴江の顔に冗談は見当たらず、大真面目な表情だったからである。