マドンナブルー
玄関に立っていた美奈子は、晴江が言っていたとおり、ぼろ雑巾のようだった。長い髪はぼさぼさに乱れ、うつむいた彼女の顔を隠すように、顔の正面をいくつもの髪の束が覆っていた。使い古され、あっさりと捨てられた気配が、におうように漂っている。
「美奈子、どうしたの!?」
美奈子は咲羅の声を聞くと、両手で顔を覆いわあっと泣き出した。
「ともかく中に入って」
咲羅は泣きじゃくる美奈子に寄り添い、彼女を自分の部屋に案内した。
ひとしきり泣いた後、徐々に落ち着きを取り戻した美奈子は、重い口を開いた。
「私、妊娠してるの・・・・・・」
最悪の事態を想定していた咲羅に、さほどの驚きはなかった。そのことよりも咲羅を動揺させたのは、美奈子の顔である。口元に赤く血がにじみ、頬ははれぼったく紅潮している。てかてかと光る涙の跡が、顔の赤みを生々しくしていた。何者かの暴力が、顕著に表れている。妊娠の事実を吐き出した美奈子は、せきを切ったように自分の身に起きた出来事を話し始めた。
美奈子の話は、つまりこういうことだった。
近頃、恋人である及川の態度が冷たくなった。彼女以外の異性の影も、ちらほらと見受けられるようになった。そんな及川に美奈子は見切りをつけたのではなく、彼をつなぎとめようとする意識が動いた。そのため無防備なセックスも受け入れた。その結果の妊娠である。美奈子は今朝、及川に妊娠の事実を告げるために彼と会った。妊娠が判明した時点で、及川と結婚し子供を生み育てるという未来図が、彼女の中に出来上がっていた。
しかし及川の反応は、美奈子の予想とかけ離れたものだった。彼女が浮気をして妊娠したものと決め付け、逆上した及川は、執拗に美奈子に暴力を加えた。彼の逆上の裏に責任逃れがあることは明白だった。こどもの父親が誰であるか、及川が身を持ってわかっているはずなのだ。
それから美奈子は乱暴に車内から引きずりおろされ、道端に一人取り残された。怒った彼女は電車で及川の家へ向かった。彼の家には何度か行ったことがあり、彼の母親とも面識があった。その母親に訴えようと考えたのだ。しかし母親は、美奈子を一目見るなり初対面のようなよそよそしい態度を示した。及川の子供を妊娠した事実を告げると、「うちの子が父親だという証拠はあるの?」「どうせお金が目当てなんでしょ?」と、まるで彼と示し合わせたかのような陰惨な回答を突きつけてきた。
その後、途方にくれた美奈子は、咲羅に助けを求めるように彼女を訪ねた。これが、今日の美奈子の事の顛末である。彼女は思いつめたような口調で話し終えると、ふたたび泣き崩れた。
咲羅は、こんな美奈子の姿が信じられなかった。いつも気高く振舞う、そんな彼女の打ちひしがれた姿がショックだった。咲羅は美奈子にかける言葉が見つからず、むせび泣く彼女の傍らに、ただ座っていることしかできなかった。
「美奈子、どうしたの!?」
美奈子は咲羅の声を聞くと、両手で顔を覆いわあっと泣き出した。
「ともかく中に入って」
咲羅は泣きじゃくる美奈子に寄り添い、彼女を自分の部屋に案内した。
ひとしきり泣いた後、徐々に落ち着きを取り戻した美奈子は、重い口を開いた。
「私、妊娠してるの・・・・・・」
最悪の事態を想定していた咲羅に、さほどの驚きはなかった。そのことよりも咲羅を動揺させたのは、美奈子の顔である。口元に赤く血がにじみ、頬ははれぼったく紅潮している。てかてかと光る涙の跡が、顔の赤みを生々しくしていた。何者かの暴力が、顕著に表れている。妊娠の事実を吐き出した美奈子は、せきを切ったように自分の身に起きた出来事を話し始めた。
美奈子の話は、つまりこういうことだった。
近頃、恋人である及川の態度が冷たくなった。彼女以外の異性の影も、ちらほらと見受けられるようになった。そんな及川に美奈子は見切りをつけたのではなく、彼をつなぎとめようとする意識が動いた。そのため無防備なセックスも受け入れた。その結果の妊娠である。美奈子は今朝、及川に妊娠の事実を告げるために彼と会った。妊娠が判明した時点で、及川と結婚し子供を生み育てるという未来図が、彼女の中に出来上がっていた。
しかし及川の反応は、美奈子の予想とかけ離れたものだった。彼女が浮気をして妊娠したものと決め付け、逆上した及川は、執拗に美奈子に暴力を加えた。彼の逆上の裏に責任逃れがあることは明白だった。こどもの父親が誰であるか、及川が身を持ってわかっているはずなのだ。
それから美奈子は乱暴に車内から引きずりおろされ、道端に一人取り残された。怒った彼女は電車で及川の家へ向かった。彼の家には何度か行ったことがあり、彼の母親とも面識があった。その母親に訴えようと考えたのだ。しかし母親は、美奈子を一目見るなり初対面のようなよそよそしい態度を示した。及川の子供を妊娠した事実を告げると、「うちの子が父親だという証拠はあるの?」「どうせお金が目当てなんでしょ?」と、まるで彼と示し合わせたかのような陰惨な回答を突きつけてきた。
その後、途方にくれた美奈子は、咲羅に助けを求めるように彼女を訪ねた。これが、今日の美奈子の事の顛末である。彼女は思いつめたような口調で話し終えると、ふたたび泣き崩れた。
咲羅は、こんな美奈子の姿が信じられなかった。いつも気高く振舞う、そんな彼女の打ちひしがれた姿がショックだった。咲羅は美奈子にかける言葉が見つからず、むせび泣く彼女の傍らに、ただ座っていることしかできなかった。