マドンナブルー
 その日は夕方からバイトだった。午後九時に仕事を終え、咲羅は店を出た。店の脇に止めた自転車にまたがろうとしたとき、彼女の全身の筋肉が固まった。

 週末の繁華街は混雑していた。彼女の前方から人ごみに紛れ込むようにして、一組の男女が近づいてくる。その男のほうの顔に、咲羅の目は釘付けとなった。男は及川だった。彼は同じ年頃の女性を連れ立っていた。その様子は親密そうである。友人というより男女の仲という雰囲気だ。

 固まったままの咲羅と及川は、体が触れそうな距離ですれ違った。彼のほうは、咲羅に気づいていないようだ。咲羅は後ろを振り返った。二人の男女の背と、楽しそうに笑う二つの横顔が見える。やがて、二人は人ごみに紛れて咲羅の視界から消えた。しかし彼女は棒立ちのまま、二人が消えた視線の先を、しばらく見つめていた。
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