マドンナブルー
翌日、美奈子は母親に付き添われ、病院へと向かっていた。これから中絶手術を受けに行くのだ。これが正しい選択であると納得したものの、足取りは、やはり重かった。病院が見えてきた。大通りに面しており、病院の前を多くの人々が行き交っている。美奈子はとっさに隠れたくなった。そんな気持ちにさせたのは、人々の目だけではない。病院の外壁は、ベビーピンクに塗られている。その幸せな色が、今はなんとも残酷なものに感じられたのだ。
病院が目前に近づいたとき、あれっ?と思い、美奈子はおもわず足を止めた。病院の出入り口付近を大きなお腹の女性が行き来する中、一人たたずむ男の姿があった。杜である。彼は、ぶかぶかの大きなスーツを着ていた。おそらく巨漢の父親のものを拝借してきたのだろう。いつものぼさぼさ頭はかっちりとワックスで固められ、深紅の大きなバラの花束を抱え込んでいる。場所は産婦人科医院の門前である。緊張した面持ちの彼は、場違いで目立っていた。
美奈子は目頭が熱くなった。張り詰めていた恐怖心が緩み、気が抜けたように涙があふれ、両手で顔を覆った。そんな娘を心配し、美奈子の母親はおろおろとしている。
きょろきょろとあたりを見回していた杜の目が、美奈子を見つけた。彼は緊張した表情を崩さないまま、美奈子のもとへ駆け寄ってきた。
二人は無言で向かい合った。杜は勢いよく頭をかがめ、カチコチとした体から、花束を持った両腕を突き出した。彼らの距離が近すぎたため、花束は美奈子に押し当たった。無我夢中の彼はそんなことには気づかず、
「俺と結婚してください!」
と叫んだ。通勤時間のため、多くの通行人たちは、二人に好奇の目を向けていく。
花束に、美奈子の手の触れる気配が、杜の手に伝わった。彼は急き込んで顔を上げた。深紅のバラの隣で、美奈子は笑顔で泣いていた。杜の緊張はようやく解け、ほっとしたように彼も笑顔となる。・・・・・・突然、拍手が巻き起こった。杜と美奈子は急に現実に戻り、驚いて周囲を見た。いつの間にか、彼らに祝福を送る人の群れができていた。二人は呆然として顔を見合すと、くすくすと笑い始めた。
病院が目前に近づいたとき、あれっ?と思い、美奈子はおもわず足を止めた。病院の出入り口付近を大きなお腹の女性が行き来する中、一人たたずむ男の姿があった。杜である。彼は、ぶかぶかの大きなスーツを着ていた。おそらく巨漢の父親のものを拝借してきたのだろう。いつものぼさぼさ頭はかっちりとワックスで固められ、深紅の大きなバラの花束を抱え込んでいる。場所は産婦人科医院の門前である。緊張した面持ちの彼は、場違いで目立っていた。
美奈子は目頭が熱くなった。張り詰めていた恐怖心が緩み、気が抜けたように涙があふれ、両手で顔を覆った。そんな娘を心配し、美奈子の母親はおろおろとしている。
きょろきょろとあたりを見回していた杜の目が、美奈子を見つけた。彼は緊張した表情を崩さないまま、美奈子のもとへ駆け寄ってきた。
二人は無言で向かい合った。杜は勢いよく頭をかがめ、カチコチとした体から、花束を持った両腕を突き出した。彼らの距離が近すぎたため、花束は美奈子に押し当たった。無我夢中の彼はそんなことには気づかず、
「俺と結婚してください!」
と叫んだ。通勤時間のため、多くの通行人たちは、二人に好奇の目を向けていく。
花束に、美奈子の手の触れる気配が、杜の手に伝わった。彼は急き込んで顔を上げた。深紅のバラの隣で、美奈子は笑顔で泣いていた。杜の緊張はようやく解け、ほっとしたように彼も笑顔となる。・・・・・・突然、拍手が巻き起こった。杜と美奈子は急に現実に戻り、驚いて周囲を見た。いつの間にか、彼らに祝福を送る人の群れができていた。二人は呆然として顔を見合すと、くすくすと笑い始めた。