マドンナブルー
しばらくの間、男たちは狼狽する咲羅の様子を楽しんでいた。しかしここは公道である。人の往来を危惧した彼らは、この辺で撤収すべきと考えた。
小柄な咲羅は、背後から近づいた男にいとも簡単にすくい上げられた。別の男が車のドアを開け、暗く狭い車内と咲羅は向かい合う形となった。その陰惨な空間が、徐々に近づいてくる。
このときの咲羅は、すでに観念していた。おとなしくさえしていれば、命の危険までは及ばないだろうという心理となっていた。しかし、自分が処女であることを思い出し、こんな形で初体験を迎えるくらいなら、死んだほうがマシだという意識となった。
火事場の馬鹿力を全身にみなぎらせ、咲羅は抵抗した。さすがに、成人男性に抱きすくめられた上半身は身動きが取れない。しかし脚は自由である。咲羅は両脚を激しくバタつかせた。その弾みで、背後の男の腕から咲羅の体は滑り落ちそうになった。彼女の脚の動きを封じ込めようと、あわてて早坂が近づいてきた。激しく動く咲羅の脚は、中腰の体勢の早坂の顔を蹴った。とたんに彼は逆上した。
「コノヤロー!なにすんだ!」
早坂は思いっきり咲羅の頬をぶった。衝撃は激しく、咲羅はぐったりとおとなしくなった。もう、抵抗する気力は残っていなかった。
そのとき、
「お前たち、そこで何やってるんだ!」
という声が響いた。男たちが一斉に声のほうを向くと、自転車を押す、大きな影があった。その影が近づいてくると、その人物の顔が詳細となった。安藤だった。彼の目に、自分の生徒が男に背後から抱きすくめられ、今まさに、強引に車内に詰め込まれようとしている誘拐の画が映った。
「吉岡・・・・・・?」
咲羅と気づき、安藤は驚いた様子で言った。
「先生助けて!」
安藤は、にぎっていた自転車のグリップを離した。ガシャン!と自転車の倒れた音が響いたときにはもう、咲羅は男から引っ剥がされていた。あまりに一瞬の出来事だったため、わけが分からず、気づいたら安藤のそばに咲羅はいた。安藤は咲羅を守るように、彼女の肩を抱いて自分に引き寄せていた。そのため、二人の横腹は密着していた。
咲羅は上を見上げると、安藤の顔があった。真下から見上げているため、太い首と、大きなのど仏がまず目に入る。その上に彼の顔がある。その表情は、彼女が初めて見るものだった。いつも笑顔で、ふわふわとどこか頼りなさそうで、強そうでいて弱そう。そんな印象の安藤が、精悍で厳かな表情で男たちをにらみ付けている。その男ぶりに、咲羅は人知れずときめいた。彼女は安堵すると同時に、恐怖で張り詰めていた糸が切れたように、彼女の意識も途切れた。
小柄な咲羅は、背後から近づいた男にいとも簡単にすくい上げられた。別の男が車のドアを開け、暗く狭い車内と咲羅は向かい合う形となった。その陰惨な空間が、徐々に近づいてくる。
このときの咲羅は、すでに観念していた。おとなしくさえしていれば、命の危険までは及ばないだろうという心理となっていた。しかし、自分が処女であることを思い出し、こんな形で初体験を迎えるくらいなら、死んだほうがマシだという意識となった。
火事場の馬鹿力を全身にみなぎらせ、咲羅は抵抗した。さすがに、成人男性に抱きすくめられた上半身は身動きが取れない。しかし脚は自由である。咲羅は両脚を激しくバタつかせた。その弾みで、背後の男の腕から咲羅の体は滑り落ちそうになった。彼女の脚の動きを封じ込めようと、あわてて早坂が近づいてきた。激しく動く咲羅の脚は、中腰の体勢の早坂の顔を蹴った。とたんに彼は逆上した。
「コノヤロー!なにすんだ!」
早坂は思いっきり咲羅の頬をぶった。衝撃は激しく、咲羅はぐったりとおとなしくなった。もう、抵抗する気力は残っていなかった。
そのとき、
「お前たち、そこで何やってるんだ!」
という声が響いた。男たちが一斉に声のほうを向くと、自転車を押す、大きな影があった。その影が近づいてくると、その人物の顔が詳細となった。安藤だった。彼の目に、自分の生徒が男に背後から抱きすくめられ、今まさに、強引に車内に詰め込まれようとしている誘拐の画が映った。
「吉岡・・・・・・?」
咲羅と気づき、安藤は驚いた様子で言った。
「先生助けて!」
安藤は、にぎっていた自転車のグリップを離した。ガシャン!と自転車の倒れた音が響いたときにはもう、咲羅は男から引っ剥がされていた。あまりに一瞬の出来事だったため、わけが分からず、気づいたら安藤のそばに咲羅はいた。安藤は咲羅を守るように、彼女の肩を抱いて自分に引き寄せていた。そのため、二人の横腹は密着していた。
咲羅は上を見上げると、安藤の顔があった。真下から見上げているため、太い首と、大きなのど仏がまず目に入る。その上に彼の顔がある。その表情は、彼女が初めて見るものだった。いつも笑顔で、ふわふわとどこか頼りなさそうで、強そうでいて弱そう。そんな印象の安藤が、精悍で厳かな表情で男たちをにらみ付けている。その男ぶりに、咲羅は人知れずときめいた。彼女は安堵すると同時に、恐怖で張り詰めていた糸が切れたように、彼女の意識も途切れた。