溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜


「社長のゴーサインは出たんですか?」
「いや、そんな許可いちいちいらん。だいたい現場にいない人間になにがわかる。俺がいいと言えばいいんだよ」

なんて無茶苦茶な……。だけど彼はそんな人。後ろ指指されようが、自分が正しいと思った道を歩く。

数年前と変わらず、九条さんの型破りな性格は今も健在だ。

「あんた、なんか変わったわね」

自分のデスクへと着く九条さんと入れ替わるようにしてユリさんの声が背後から聞こえてきた。ん?と首を傾げながら振り返る。

「変わったってなにがですか?」
「あんなに九条さんに怯えてたのに、声をかけられてもビクりともしなかったから」

あ……言われてみればそうかもしれない。少し前までは、名前を呼ばれるだけで竦んでいた。椅子から転げ落ちたりもしていた。

それなのにいつの間にか、恐怖心というものが薄れたようにも思える。ユリさんに言われるまで全く気がつかなかった。
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