溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜


「本当にどうしようもないよね、私。自分でも呆れている。相手にも迷惑がられているし、そのたびに自己嫌悪。でもバカみたいに好きなの。どんなに遠い人になったって、いつも頭の中は彼でいっぱい」

そう言って朱音さんはテーブルに置いてあった経済ジャーナルを手に取り、物思いにふけるようにその表紙を眺める。

その瞳はキラキラしていた。きっと九条さんのことを思い浮かべているんだろう。誰かを一途に思う姿がこんなにも綺麗だということ、初めて知った。




なんだか勇気をもらった気がした。報われなくても、それでいいじゃないかと。

「おばちゃん! さんま定食大盛りで!」

帰り道、景気づけとばかりに福々亭へと足を運んだ。入ってすぐ九条さんの姿を探したけど、まだ来ていないようだった。

もし現れたら今まで通りでいよう。彼女は無理だとしても、部下としてはこれからも変わらず側にいられるのだから。
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