溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

「自分の母親のせいもあると思う」
「え？ お母さん？」
「あぁ。感情の起伏が激しい人で、機嫌がいいときは優しい母親だったけど、悪い時はよく殴られてたし、外に出されるのなんてしょっちゅうだった。男にフラれた時なんかはすごかったよ。お前がいるせいで幸せになれないって喚き散らかされたり。ガキの頃から女のそういう面を間近で見せられてきたせいもあると思う」

ふと見せた九条さんの寂しげな顔。口が悪くていつも堂々としている彼にもこんな一面があったなんて、なんだか切ない気持ちになる。

「母親は未婚で俺を生んだんだ。今思うとあいつはあいつで必死で頑張ってたんだと思う。当時は分かってやれなかったけど」
「今はどうしてるんですか？」
「元気だと思う。どっかの金持ちと結婚したらしいから」
「そうなんですね」

よかった、お母さんも幸せを掴んでいて。見たことも会ったこともないのに、心からホッとしたような気持になる。