溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

しかもよく見ると、抱きしめているのはいつもデスクに置いていたもふもふの犬のぬいぐるみ。そいつにまで盛大によだれが付着しているのに気がついて、慌ててごしごしと拭う。

この状況……どうやらデスクの上で眠っていたらしい。辺りは設計書やらマウスやら駄菓子やらが散乱。さっきのは夢だったんだと我にかえる……。

「すげぇ寝言言ってたけどどんな夢見てたんだよ」
「や、えっと……」

口が裂けても言えない。九条さんとベッドでイチャイチャしていた夢を見ていたなんて。

あぁ、夢の中の九条さんはかっこよかったなぁ。優しい声でおはよって私を起こしてくれて、頬にキスしてくれて、また青って呼んでくれて。すべて幻だったなんて。

「うわぁーーーん!」
「今度はなに急に泣いてんだよ!」

机に突っ伏した私を九条さんが鋭く突っ込む。思いが通じ合ったその日に職場で一夜を過ごすことになるなんて、誰が想像しただろう。自業自得なのだけど期待していただけにショックが大きい。

< 212 / 291 >

この作品をシェア

pagetop