溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜


取引先、スポンサー、メディアなどを集め盛大にするのかと思っていたら、なんともアットホームな挙式で驚いた。

「例えどんなに有名になったって、俺の原点は朱音と、そしてお前だ」

結婚報告の電話でそう言っていた井上。こいつらしい言葉に妙に納得した。

もともと苦労人の井上。両親は早くに他界していて、大学も奨学金で通っていた。卒業後は大手企業に就職し、エンジニアとして働いていた。

だけど突然、起業すると夏季休暇で訪れていたこの島で、俺と朱音に告げたのだ。

朱音は反対していた。博打のようなことはしてほしくないと。だけど止める朱音を振り切って海外に留学。

数えきれないくらい朱音を泣かせてきた。必ず迎えに来るからとは約束しなかった。どうしてそんなむごい真似と思ったが、今なら同じ男としてその気持ちがわかる。

こいつのこんな性格がコロパゴを大きくした要因なのだろう。


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