溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜


「だいたいお前は雇われる性分じゃないだろ。それなのに今の社長に泣きつかれたからって。どんだけお人好しなんだよ」

井上がククッと喉を鳴らし笑う。事情を知るのはこいつくらい。

俺も井上と同じくらいの時期に起業を考えていた。だが以前一緒に働いていた今の社長、久田さんが脱サラして立ち上げた会社が潰れそうだからと助けを求められ、全てを好きにしていいからと今のポジションに就けられた。

1年間のつもりがなんだかんだで今年で5年目になる。

「九条、早く俺に追いつけ、追い越せ」

待ってるからな、と煽る井上から視線を逸らし、後方のテラス席を見る。

自分食いぶちのためならここまで闘志も沸かなかっただろう。だけど今はあいつの為にも、二人の未来の為にも、世に知らしめたい気持ちでいっぱいだ。


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