溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜



「九条さーん! 早く早く!」

席に戻る俺に、必死に手を振る西沢の顔は真っ赤で、目もうつろなのがここからでもよくわかった。

それはさっき席を離れたときより明らかに酔っているなによりの証拠で、やれやれと内心ため息がこぼれた。

あとでプールで一緒に泳ぎましょう!なんて、自分が言っていたくせに。これじゃあ到底無理だろうと思いながら席に着く。

その直後、待っていましたといわんばかりに、俺の肩に甘えるようにちょんと頭を乗せてきた。

「もぉ~どこ行ってたんですかぁ。寂しかったです」
「ちょっと海岸をぶらっと。それよりお前大丈夫か?」
「ん~? 大丈夫ですよ~」

目を閉じたまま呂律も怪しい口調でそう言う。どこがだよ、と言いたいところだが、恐らくその声ももう届かないだろう。

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