溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜



結局、父親は最後までろくに口も開かず、無愛想なままだった。だが母親の表情は、来た時より少し柔らかいものになっていて、玄関を出る西沢に、

「がんばりなさい」

と声をかけていた。

その帰りの車の中、西沢は突然声を上げ泣き始めた。堪えていたものが溢れたように。

そんな自分に困惑したのか何度も、「ごめんなさい」と言って肩をヒクヒクと揺らしながら、必死に涙を拭い止めようとしていた。

だけど俺はそんな西沢に「それでいい」と言った。悲しければ大声で泣けばいい。悔しかったら悔しいと叫べばいい。

俺の前ではありのままの自分でいていいんだ、というように、泣きじゃくる彼女を引き寄せ抱きしめた。


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