隣人はヒモである【完】
「鍵を忘れてしまって」
「……ああ。……あの、秋元さん、は」
「今夜は帰りません」
「……えっ、」
「出張で」
「……じゃあ、」
一晩中そこに?
と、訊ねようとして、すんでのところで思いとどまった。そう聞いてしまって、そのあとは? あたしが面倒を見なきゃいけない流れになるんじゃ? 事情を聞いて放っとくなんて、酷い人間と思われるのでは?
もっとも、あたしがこの人や、この人の彼女にそう思われたところでなんのデメリットもないんだけど……。
罪悪感を感じたくなくて、微妙に良い人でいたくて、半端なところで何の言葉も出てこなくなってしまった。
「……気にしないでいいんで」
あたしの気まずさを悟ってか、レオさんは鼻で笑ってあたしから顔をそらす。
パーカーのフードをかぶり直した彼は、もうあたしのことなんか忘れたみたいにちっともこちらを見やしない。