隣人はヒモである【完】
わずかに揺れたフードから見える横顔を見て、鼻が高いな、なんて考えた。
外で一晩過ごすことなんて、きっとこの人にとってはどうってことない選択なんだろう。
幸いまだ凍えるほど寒い季節ではないし、あたしが放っといたって死ぬわけない。わかってる。
それじゃあ、とでも適当に言って家に入ればよかったんだろうけど、なんとなくできなくなってしまって、あたしも自分で何故そんなことを言ってしまったのか分からないのだけれど。
「じゃあ、うちにきます?」
なんて。とんでもないことを口走っていた。
あ、言っちゃった。と思ったけれど、本当に辛い気持ち、餌やりの必要ないペットを一晩預かるくらいの気持ちで引き受けようとしているだけだ。
後悔する間もなく、今度はこっちへ再び顔を向けた彼が、待ってましたと言わんばかりに口角を上げていて、ぞくぞくっと背筋が伸びる感じがした。
彼をとらないで。私には彼しかいない。
そう言い切った秋元さんの必死の形相を思い出したのは、ヒモのおじさんを部屋に入れてからちょっと経ってだった。
あたし、とんでもないことをしたんでは?
「へえ。……意外ときれいだな。ていうかなんもねえな」
「……どうも?」
意外と? なんか上から目線。ていうかタメ口?
水を滴らせるおじさんにタオルを差し出すと、どうも、とぶっきらぼうな返事で受け取られた。
部屋に誘っちゃったよ。ついてきちゃったよ。誘っといてなんだけど普通遠慮しない? なにこの人は普通に女子大生の一人暮らしのアパートに上がり込んでんだ。あたしが呼び込んだとはいえど。