隣人はヒモである【完】
「窓開けていいですか」
「どうぞどうぞ」
部屋に充満した不健康な匂いを逃がしてやりたくて、網戸のついていない窓を全開にした。
外の空気がすうと入ってきて、ようやく息ができる気がする
この人は一日に一体何本煙草を吸うのだろうか。
その煙草も、あの彼女に買ってもらってるのか。
聞いてみたいけど聞けない。思いっきり蔑んでやりたいけど、できない。
部屋の空気が入れ替わるのを待って、夜風が少し肌寒いので窓を閉めた。
「……そろそろ寝ますか?」
「ねえ」
「え?」
「きみ、今日は静かに寝れるねえ」
「……え?」
嘲笑的な笑みを浮かべた彼に、何故だか強烈な色気を感じて一瞬うろたえてしまう。
静かに寝れるね? ……何の話?
「……どういう意味で?」
「あの女の喘ぎ声、聞かずに快適に眠れるね」
「……え」
相変わらずにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべるこの男に、嫌悪感と好奇心を順番に感じた。
どういう意味で? そんな話。
あの女の喘ぎ声。
この人は、あたしが聞いてたことを知ってる。いや、聞こえるようにわざとしてた? あたしに。この人がわざと?
そんな風には考えたことなかった。なんのために? そしてどうして今、それをあたしに教えたの。