隣人はヒモである【完】




「窓開けていいですか」


「どうぞどうぞ」




部屋に充満した不健康な匂いを逃がしてやりたくて、網戸のついていない窓を全開にした。


外の空気がすうと入ってきて、ようやく息ができる気がする


この人は一日に一体何本煙草を吸うのだろうか。


その煙草も、あの彼女に買ってもらってるのか。


聞いてみたいけど聞けない。思いっきり蔑んでやりたいけど、できない。


部屋の空気が入れ替わるのを待って、夜風が少し肌寒いので窓を閉めた。




「……そろそろ寝ますか?」


「ねえ」


「え?」


「きみ、今日は静かに寝れるねえ」


「……え?」




嘲笑的な笑みを浮かべた彼に、何故だか強烈な色気を感じて一瞬うろたえてしまう。


静かに寝れるね? ……何の話?




「……どういう意味で?」


「あの女の喘ぎ声、聞かずに快適に眠れるね」


「……え」




相変わらずにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべるこの男に、嫌悪感と好奇心を順番に感じた。


どういう意味で? そんな話。


あの女の喘ぎ声。


この人は、あたしが聞いてたことを知ってる。いや、聞こえるようにわざとしてた? あたしに。この人がわざと?


そんな風には考えたことなかった。なんのために? そしてどうして今、それをあたしに教えたの。

< 26 / 68 >

この作品をシェア

pagetop