ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】
「そういえば、引越しもうすぐだけど?」
「大丈夫! 荷物はまとめ終わったよ」
「いよいよか……」
「うん、少し時間かかったね……」
いつかの些細な独り言は、沙奈にしっかり届いていた。
俺たちはもうすぐ、人の目に触れない田舎で一緒に暮らし、 自分たちで野菜作ったり、川で綺麗な水を汲んだり生きていく。
「お待たせしました。オレンジブロッサムです」
コースターを滑らせ、あざやかな橙色のカクテルが目の前に置かれた。
そして……。
「どうぞ」
「……え!?」
沙奈は驚き、カウンターから少し身を引く。
バーテンダーは、グラスと一緒に小さな四角い箱をスッと置いた。
「こ、れ……って?」
今から起こることを悟り、俺を見る目はすでに涙が溢れていた。
「敬太?」
「……うん。沙奈に受け取ってほしいんだ」
「ッ……」
「オレンジブロッサムはね、結婚式の前に飲むカクテルなんだよ」
俺は箱を開け、指輪だけを手に取る。
「沙奈、愛してる。僕と結婚してください」
「敬太……」
「もしもイエスなら、そのカクテルを飲んでほしい」
「…………」
正直、不安だらけだ。
俺たちは同じ傷を持つ者同士。
一緒に生きていくことは、その傷を舐め合う関係に過ぎないのかもしれない。
「…………」
でも、絶対に守ると誓った。もう離れないと約束した。
永遠に変わらない思いを形にするなら、この指輪しかない。
「…………」
不安を隠しきれずに下を向いていると、涙を拭いた沙奈は、グラスを持ってこう言う。
「敬太、乾杯しよっ」
「……ぇ、てことは?」
照れながら、右手を差しだす。
「敬太。私のこと、幸せにして」
「もちろん!」
俺は、その薬指に指輪をはめる。
「……いい?」
「いいよ」
「「……乾杯」」
――チーーーンッ。
4年に一度の2月29日、沙奈は俺と同じ未来も注文した。