ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】



首をゆっくりと動かして、周囲をうかがう彼。

……まさか、侵入しようとしてるのか?

ずぶ濡れの服とイヤな予感で、身震いした。

「風邪引くよ。もう帰ろう! こんな所にいたって……」

だが、彼は僕の言葉を聞き入れる様子もなく、携帯で電話を掛ける。

そして、やっと声を発した。

『上野動物園ニ侵入者ガイマス。今スグ来テクダサイ』

……ぁ゛ぁ゛ぁ゛……。

驚きのあまり身を引く。

その声は、さっき公園で聞いたのと同じ、低い女の声だったから。

しかも……浩介の唇はまったく動いていなかった。

「ど、どうなってんだ……」

電話を切った彼……いや、“彼女”は、開いた口が塞がらない僕を見て、ニヤリと笑う。

 ザッ――

「く、来るな゛!」

 ザッ――

「来るなよ゛!!」

 ザッ――

あとずさる僕に、得体の知れない存在に乗り移られた浩介は腕を伸ばす。

「ッ!?」

指の隙間から見えたその瞳は、白と黒が逆転していた。

……呪われてる!?

「ぬ゛ぁ!」

ついに、顔面を襲う手のひら。

ものすごい力。

ギリギリと爪を立て、頭蓋骨を圧迫される。

「痛っ゛! や……や、め゛ろ……」

こめかみを矢が貫くような激痛。

意識が飛ぶまで、そう時間はかからなかった。



 
< 37 / 172 >

この作品をシェア

pagetop