ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】
首をゆっくりと動かして、周囲をうかがう彼。
……まさか、侵入しようとしてるのか?
ずぶ濡れの服とイヤな予感で、身震いした。
「風邪引くよ。もう帰ろう! こんな所にいたって……」
だが、彼は僕の言葉を聞き入れる様子もなく、携帯で電話を掛ける。
そして、やっと声を発した。
『上野動物園ニ侵入者ガイマス。今スグ来テクダサイ』
……ぁ゛ぁ゛ぁ゛……。
驚きのあまり身を引く。
その声は、さっき公園で聞いたのと同じ、低い女の声だったから。
しかも……浩介の唇はまったく動いていなかった。
「ど、どうなってんだ……」
電話を切った彼……いや、“彼女”は、開いた口が塞がらない僕を見て、ニヤリと笑う。
ザッ――
「く、来るな゛!」
ザッ――
「来るなよ゛!!」
ザッ――
あとずさる僕に、得体の知れない存在に乗り移られた浩介は腕を伸ばす。
「ッ!?」
指の隙間から見えたその瞳は、白と黒が逆転していた。
……呪われてる!?
「ぬ゛ぁ!」
ついに、顔面を襲う手のひら。
ものすごい力。
ギリギリと爪を立て、頭蓋骨を圧迫される。
「痛っ゛! や……や、め゛ろ……」
こめかみを矢が貫くような激痛。
意識が飛ぶまで、そう時間はかからなかった。