ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
車に乗り、再びスリッパへと履き替えた彩矢香は、ハンドルをまるで手すりのように掴んでため息をついた。
「疲れた?」
「……ぅん」
疲労と緊張と、安堵。そして、新たな脅威。
気丈で人に弱さを見せない彼女が、僕の前でか弱き女の子になる。
こういう姿を見て、独占欲を駆り立てられるのは、男の性というもの。
「どこかで休んでから帰らない?」
今なら、下心も見抜けないと思った。
「そうだね。もう限界かも」
下道を走ること約10分。
田舎というものは、遊べる場所が少ない代わりに、ある施設が多く点在している。
「あった! ほら!」
ゴリゴリのザ・ラブホテル。
彩矢香は怪訝な顔をして、入口の前で車を停めた。
「ホントに入るの?」
「少し休むにはちょうどいいでしょ?」
「私、ラブホとか入ったことないんだけど……」
内心僕は、嘘つけ!と叫んだ。
これは、異性から引け目で見られないために取る女の性というもの。
そんな時こそ、プライドを撫でてあげればチョロい。
「マジ⁉ まぁたしかに彩矢香は、星のついたホテルが似合ってるよね。でも、一度くらいは経験してみても良くない?」
「うぅ~ん……」
あと、もう一押し。
「安心して。何もしないから!」
ウソです。真っ赤な。
だが大抵、これで折れる。
「この辺りに普通のホテルはなさそうだし、すぐに出るからまいっか」
私は軽い女じゃないのよ!と、そんな言い訳をしながら、彩矢香はハンドルを切って、車が敷地内に入った。
この領域に入れば、第三段階は手中に収めたようなもの。
とは言え、何を隠そうこの僕も緊張していた。
これまでの経験なんてカス同然。彩矢香は別格だから。