ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
開桜中学校の入学式。
奇跡が起こった。
なんと、あの母が出席するというのだ。
いや、約1年半もの間、私を支え続けたのだから、娘の成長を目に焼き付けたくなったのだろう。
当然の心理と言える。
あまりに嬉しくて、式の最中も何度母のいる後方に目を向けたことか。
その度に母は、手のひらで「前を向け!」と促した。
あのサングラスの奥には微笑みがあるはずと、その度に私はニッコリと笑って前を向く。
教室の中でもそう。
担任の話より、母ばかりが気になって……。
『ぁ……』
そんな私に目もくれず、母はおもむろにサングラスを取り、遅れてやって来たある生徒の父親を見ていた。
知り合いなのだろうか、ずっと視線を外さない。
相手がハッとして気付くまで。
そこからが対照的だった。
母は満足げに再びサングラスを掛け、その父親は止まらない汗をハンカチで拭いながら、逃げるように教室から出ていく。
あれは一体何だったのか。もちろん、帰りがけに尋ねた。
『見てたのね。あの人は……』
言葉を濁す母に、前を制し見上げて応戦。
そんな私に観念して、
『お母さんがあなたを産む前にフッた人よ。こう見えて、昔はけっこうモテたの』
と、温かい手で頬を優しく撫でる。
『やっぱりモテたんだ!』
自慢げに言う母に納得して、気持ちの高揚ついでに腕を組んで歩く。
『だってお母さん、美人だもん! 女優さんに負けないぐらい』
『そう? うれしいわ』
ずっと思っていた。
授業参観でも何十人って母親を見てきたけれど、私の母が一番キレイだしスタイルも良いと。
人知れずの優越感が爆発したあの日は、思い返せば、私たち親子の仲睦まじい姿の最後だった。
将来への希望に胸を膨らませていた私と、過去の秘密に胸を焦がしていた母。
対照的だったのは、他でもない私たち母娘だったのだ。