ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】



体育の授業が水泳になった7月、ささやかな喜びがあった。

学校のトイレで用を足したとき、ショーツに赤いシミを発見。

『きた!』

思わず声をあげた。とうとう私にも、初潮がきたのだ。

それまで不安で不安で。自分は妊娠できない身体なんじゃないかと、怯えてもいた。

でも、タイミングが悪すぎる。5限目は、その体育だ。

紙を何重にも折り曲げてショーツの上に敷き、職員室に向かう。

そこで初めて、女子だけが使える魔法の言葉を唱えた。

ワンランク上にアップしたような高揚感。

なんだか水の中で騒ぐクラスメイトたちが子どものように見えた。

最近、長距離走の選手に転向した上村くんの顔が、楽しかった幼少期を思い出させる。

授業が終盤に差しかかったとき、大声を張り上げる体育教師の元に、ひとりの女性教諭が駆け寄ってきた。

ちょうど私の目の前で、

『練習試合の件で緊急に相談したい事があるそうで……』

と耳打ち。その体育教師はバレー部の顧問だった。

『すぐ戻るからな! それまで自由時間だ!』

辺りが歓声で湧き、思いおもいにハシャぐ皆。

すると、隅にひっそりと座る私を見ている群れがあった。

尾堂直哉と橋口亮平、彼らにヒソヒソと話して笑っているのはあの3人組。

イヤな予感がして、私は視線を合わさないように下を向く。

だが、

——ピタ、ピタッ。

水にまみれたいくつかの足音がこちらに歩み寄ってきた。

『おい、大貫。ちょっとこっち来いよ!』

『なに……ですか?』

『実験だよ、実験!』

意味がわからず戸惑っていると、

『みんなーチューモーク!』

橋口亮平が声をかけ、次第に水しぶきは収まってゆく。

——……。

こちらにすべての視線が向いている。

『お前に謝りたいヤツがいるか試すんだよ。だから、ほら立て!』

尾堂直哉は、私だけにそう言った。



 
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