ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「サヤ、何飲む?」
「ん~やっぱ最初はビールだよね」
「お? アメリカ帰りのくせに普通だな! ビアーだろ」
「コーラッ、ナオヤ! 日本じゃそういう発音はし・ま・せ・んっ!!」
「いやいや、コーラはコークだろ!」
「Shut up!!」
「はい、いただきましたぁーっ!」
「「ハハハハッ――」」
この一連のやり取りを聞いて、春から警視庁にキャリアで入庁する玄一郎太が割りこんだ。
「てか、なんや、そのカスれた声!」
僕が東の〇〇なら、こいつは西の〇〇に通っている。
実のところ、性格にクセのあるこいつがあまり好きじゃない。
だから、たった4年での関西弁も鼻につく。
「そうなの~ゲン太、聞いてよ! あっちは飲む数も量もハンパないから酒やけしちゃって」
指摘通り、たしかに声はベテランのニューハーフみたいだが、モデル顔負けの美貌は昔と変わらない。
むしろ大人っぽさが上乗せされて、今のほうが魅力的に感じる。僕は。
いや、この場にいる男子すべてがそう感じているはずだ。もどかしい。
やがて注文がそろい、一同を介した乾杯が済むと、各々が7年の月日を埋めようと騒がしく語りだす。
僕の興味は、横にいる人のそれだけ。
「彩矢香、おかえり」
「うん。ただいま」
「もしかして、オヤジさんの会社を継ぐために戻ってきたの?」
「ううん。秘書をするの。少しでも役に立ちたくて経営学修士を取りに行ったんだ」
「MBA⁈ すごいじゃん!」
「たっちゃんだって、一発で司法試験に受かったんでしょ?」
「う、うん」
「それだってすごいじゃん!」
僕はたまらなく嬉しかった。
存在を忘れていなかっただけでなく、近状を知っていることが。
だけど、どうしても清算したい過去がある。
「あの日以来か……突然別れを言われたんだよな。理由をちゃんと言ってくれなかったけど、他に好きな人でもできたの?」
すると彼女は、下を向いて黙りこんだ。
笑顔ばかりが花開くこの場所で、一輪だけ萎れるヒマワリのように。
「あの頃のことは話したくない」
そう言ったきり、康文の横に行って皆と盛り上がる。