こけしの恋歌~コイウタ~
私は昔から集中すると、周りの音声が聞こえなくなるタイプみたい。

総務部のドアが開いたことにも、誰かが近づいてきていることにも、全く気づかなかった。

「こんな時間まで残業?」

「うひゃ!」

驚き過ぎて変な声は出るし、身体はビクッてなるし、椅子から落ちそうになるしで最悪…。

後ろからクスクスと笑い声が聞こえる。
振り返って見ると、男の人が腕組みしながら立っている。

顔をじーっと見て、また変な声が出そうになって、なんとか堪えた。

ファッション雑誌から飛び出してきたのかと思うくらいの、カッコいい男の人が私を見て笑っている。

一目見て、この人モテると確信出来るくらい。
三つボタンスーツが極上に似合ってて、仕事出来そうと勝手に想像してしまうくらい。

「驚かせちゃったかな?」

なんと、低音ボイスまでカッコいい。
アニメキャラの王子の声優かってツッコミたいくらい。

「いえ、こちらこそスミマセン」

私は何に対して謝ってるんだろう。
遅くまで残業してたから?
存在に気づかなかったから?
驚き過ぎて変な声が出ちゃったから?
勝手にいろいろ想像しちゃったから?





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