こけしの恋歌~コイウタ~
「本日付で総務部に着任しました、成瀬です。よろしくお願いします」

相変わらず声優のような低音ボイスで、着任の挨拶をした成瀬さん、…改め成瀬課長。

一体この人は何者なんだと思ってしまう。

若干27歳で大手総合商社の総務部課長という役職に就くなんて、会社始まって以来の出来事らしい。

頭脳明晰、容姿端麗で社内の出世頭ナンバーワンとくればモテないワケがない。

それは二年が経った今も変わらずで…。


「こけしちゃん、体調悪い?」

成瀬課長は身を屈めて、私の顔を覗き込む。
私は瞬きを何度もしてしまった。
成瀬課長の透き通った目が至近距離から私の顔色を伺っている。

待って!待って!
コレ、なんの罰ゲーム!?
ドキドキが止まらないんですがっ!!

成瀬課長、ある意味で体調悪いです…なんて、言えるワケがない。

きっと、…いや、絶対私の顔は真っ赤になってるに違いない。
身体が急に熱くなったから。

私をからかって遊ぶのはやめていただきたい。
何度心臓が壊れかけたことか。

この人はそんな私の気持ちなんて気づいてないけど。

だから所構わず、こうして私をからかって遊んでる。

今ここは、総務部のフロアですよ~課長~!
みんな見てますよ~!
最初はみんなギョッとして私たちを見てたけど、何度も繰り返されると、あ~またか~って雰囲気で、なぜか見守られている。






< 19 / 64 >

この作品をシェア

pagetop