こけしの恋歌~コイウタ~
「離しなさい!」

聞き慣れた声がするほうを見上げると、総務部長がいた。
総務部長の横には…成瀬さん?

成瀬さんは私に駆け寄って、件の彼女と距離をとってくれた。
途端に身体から力が抜けた。
それでもなんとか両足に力を入れて踏ん張る。
こんなところで倒れたくはない。

総務部長は彼女を連れてどこかへ行ってしまった。
彼女はその後オフィスに戻ってこなかった。
どうやら日頃の勤務態度も重なって、契約打ち切りとなってしまったらしい。
自業自得といえば、それまでのことかな。

「成瀬さん、ありがとうございました。私は大丈夫ですから、仕事に戻ってください。私も戻ります」

成瀬さんにぺこっと頭を下げて、総務部に戻った。
成瀬さんはなにか言いかけていたけど、私の耳には届かなかった。

その日は無事に定時で帰れた。

それから一週間後、辞令が発表された。

『総務部 課長 成瀬翔吾』




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