再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 

すっかり日が落ち、ネオンで彩られた街を車が走っていく。

強引に車の助手席に押し込まれて早々、航くんに迫られたのは「何が食べたいか」ということだった。

いつもであれば航くんが勝手に決めて連れていくのにと思いながら少し考え、私は「和食」と答えた。

すると、航くんはまるで店の候補を先に決めていたのではないかというくらいの勢いで、「じゃあ、和柚亭(わゆうてい)な」と言って車を走らせ始めた。

和柚亭はよくテレビや雑誌でも紹介される人気のお洒落な和食の店だ。

店に到着したときは満席ですぐには入れなかったけれど、ちょうどお会計に進む客がいたようで10分ほどで入店できた。

個室に案内されるとすぐ、航くんは勝手に“ゆずコース”をふたり分、店員に注文した。

メニューを見てあれこれ悩もうと思っていたから勝手に決められたことに「どうして勝手に決めるの!?」と怒ると、「紗菜が好きなもの多いんだから、別にいいだろ」とあっさり言い負かされた。

こういう強引なところは昔から何も変わっていない。

仕事で依頼者や建築士と意見が食い違ったときはどうしてるのかな……。

前に「依頼者の夢や想いを現実にしていくことが俺たちの仕事」って言っていたけれど、この航くんが自分の意見を押し通すことなく妥協することもあるってこと……?

この航くんが意見を曲げるだなんて想像がまったくつかない。

そう思いながらスーツの上着を脱いでネクタイを緩めてはずしている航くんのことを見ていると、目が合った。


「期待に応えてやれなくて悪いけど、これ以上は脱がないからな」

「なっ……期待なんてしてないよ!」

「どうだか」


航くんが可笑しそうに笑みを浮かべたとき、心臓が跳ねた。
 
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