再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
次々と運ばれてくる料理を口に運びながら、私はそれとなく出張の話題を出す。
「イタリア、楽しかった? ヨーロッパに行けるなんてうらやましいな」
「遊びに行ったみたいに言うなよ。仕事で行ったんだから、遊ぶような休みなんかなかった」
「え、それ嘘でしょ」
「本当に。まぁでも休みが少なくても、新規のところに行けて取引も決まったし、いいものを見つけられたから満足してるけどな」
航くんが仕事の話をするときは本当に楽しそうだ。
その頼もしさに心から尊敬する。
「そっかぁ。楽しそうでよかったね」
「だから、遊びに行ったみたいに言うなって。一番疲れたのは、ゆっくり過ごせるはずの貴重なフリーの時間に散々振り回されたことだな」
「振り回された?」
「結衣。あいつが一緒に行くことになってからそうなることは予想はしてたけど、あれもこれもってうるさくて仕方なかった」
「あ、そうなんだ、ね」
航くんが日本に戻ってきたことで頭がいっぱいで、藤岡さんの存在を完全に忘れていた。
やっぱり航くんはイタリアで藤岡さんとずっと一緒だったんだ。
航くんは呆れたように彼女のことを話しているけれど、「あいつ」という言い方にも優しさといとおしさがこもっているように感じる。
航くんと藤岡さんが婚約してるって話は本当なのかもしれない……。
振り回されたというのも、これからのふたりの結婚生活のため?
それなら、幼なじみとはいえ、こんなふうに私が航くんとふたりで食事をするのは絶対によくない。
航くんの強引さに流されてここに来てしまったけれど、もっとちゃんと考えてから来るべきだった。
罪悪感と嫌な気持ちが湧き上がってきて、私は口を閉ざしてしまう。