再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「紗菜? 何変な顔してんだよ」
「別に、普通だよ」
「ふーん」
興味なさげに航くんは私を見た後、再び料理に箸をつけ始めた。
私ももやもやした気持ちをのみ込むように、料理を口に運ぶ。
ふたりで食事に来てしまったのは今さらどうにもできないし、ここは個室だから帰りさえ気をつければ誰かに見られる心配もないはずだ。
今度からはきっぱり断ればいい。
そう心に決めたとき、心にポッカリ穴が開いた気がした。
……こんなことなら、以前のように戻らないほうがよかったのかな。
そうすれば、彼のことをただの“仕事仲間”として諦めることができたのに……。
って、ダメダメ! せっかく自然に笑って話せるようになったかもしれないんだから、普通に同僚として接すればいいだけ。
こうやってプライベートを一緒に過ごす時間がなくなる……ただ、それだけのことだ。
「紗菜は海外に行ったことないのか?」
「あっ、ううん。一度、高校の修学旅行でオーストラリアに行ったことがあるよ」
航くんの問いかけに、私は苦しい気持ちを抑えながら笑顔で答える。
「オーストラリアか。俺は行ったことないな」
「そうなの? 乾燥してたからお肌ぱっさぱさになっちゃったけど、すごくいいところだったよ」
「へぇ。どこ行った?」
「いろいろ有名どころには行ったけど、特にシドニーにあるセントメアリー大聖堂が素敵だったよ。特に外からの自然光を受けるステンドグラスがすごく綺麗で繊細で、友達と大興奮だったの! こんな素敵な場所で大好きな人と結婚式挙げられたら幸せだよねって妄想しちゃったりして。この前行った教会も本当に素敵だったし、やっぱり教会って憧れちゃう!」
「ふーん」
また呆れられてしまったと思い、私は慌てた。
「あっ、ごめん」
「は? なんで謝るんだよ」
航くんは眉間に皺を寄せる。
「いや……こんな話、うるさかったかなって」
「バーカ。俺を相手に何遠慮してるんだよ。紗菜の夢物語なんていつものことなんだし、好きに話せばいいだろ。紗菜らしくもない」
「……うん」
最近気づいたけれど、航くんはいつも突き放すような言い方をするし興味のないような返事をするのに、私自身を否定するようなことはあまり言わない。
「夢物語を聞くのはめんどくさい」と言い放った元カレとは違う。
でもきっと藤岡さんはこんな夢みたいな話ではなく、現実的な話をするのだろう。
夢ばかりを語る自分が子どもっぽく思えて、情けなくなった。
それから私はすぐに話題を変え、他愛のない話をして食事を終えた。
その間ももやもやした気持ちがずっと抜けなくて、大好きな抹茶のデザートもおいしいはずなのになんだかぱっとしない味に感じた。