再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
繁華街は歩道が狭く人が多いこともあり、私と航くんは会話をすることなく数分後にパーキングに到着した。
知り合いにも会わなかったしここまで来ればもう大丈夫だろうと、航くんに促されるまま助手席に乗り込む。
そういえば、藤岡さんはこの助手席に乗ったことがあるのかな……。
休日に連れまわされたときもこの車だったことを考えると、きっとこの車は彼のマイカーで普段使いもしているのだろう。
そう考えれば、航くんの彼女である藤岡さんがいつもこの位置に乗っていることは確実で、急に居心地が悪くなった。
ブライダルフェアだって彼女と行けばよかったのに、どうして私と行ったのかという疑問だって何も解決していない。
アシスタントだからといって、ブライダルフェアにまで一緒に行く理由にはならないはずだ。
……あのときのキスだって。
考え出すと切りがなくて胸が苦しくなって、私は膝の上で拳を握りしめた。
シートベルトを締めたものの、やっぱり送ってもらわないほうがいいかもしれないと思い始めたとき、運転席に座った航くんがシートベルトを締めながら私の名前を呼んだ。
「もう少し付き合ってもらってもいいか?」
「えっ?」
「いいところに連れていってやるよ」
航くんの横顔に企むような笑みが浮かぶ。
長期の海外出張から帰ってきたばかりなのに、航くんはどうしてこんなにアクティブなのだろう。
疲れているだろうからゆっくり休んでほしいし、また肩身の狭い思いをしながら外を歩くことになるのはごめんだ。
私は決意するように拳を握り、口を開く。
「ねぇ、航くん。もう遅いし今日はそのまま帰ろう? 航くんも日本に戻ってきたばかりで疲れてるだろうし、早く帰って休んで。あれだったら、やっぱり私ひとりで帰るから。ね?」
「却下」
「ちょっと……」
「労う気持ちがあるんなら、少しくらい俺に付き合えよ」
そう言うのと同時に航くんは車を発進させた。
こんなふうに言われてしまえば、拒否することなんてできない。
無駄だろうなと思いながら車を走らせる彼の横顔に目的地も聞いてみると、「紗菜が好きそうなところ」と言うだけで、他には何も教えてくれなかった。
私は早々に諦め、外を流れる景色を見つめた。