再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
車を走らせること、30分。車がパーキングに止まった。
航くんに促されるまま車を降り、ここはどこだろうと辺りを見回す。
特に夜景が綺麗なわけでも賑わっているわけでもなく、ひんやりとした空気が辺りを包み込むだけだ。
雰囲気としては住宅街のようにも思える。
「紗菜、こっち」
「えっ?」
航くんは私の手を取り、暗くて狭い歩道を歩き始める。
ダイレクトに伝わる航くんの体温に鼓動が速度を増していくのを感じ、私は慌てて彼の手から逃れようと手を引く。
ここがどこなのかはわからないけれど、誰かに見られたら困る。
「航くん、手、離して」
「いいから黙ってついてこいって」
「どこに行くのかくらい教えてよ。逃げたりしないから、離して」
「嫌。離さない」
「もう、なんなのっ! 離してってば!」
「紗菜こそ、なんでそんなにむきになってるんだよ。そんなに嫌がることないだろ。さすがに傷つく」
「傷つく」という言葉にはっと顔を上げると、街灯の小さな明かりが航くんの整った横顔を映し出していた。
その表情は傷ついているようには見えないのに妙に胸の奥がざわつき、それ以上は何も言えなくなって私は反抗するのをやめた。
どうして私がこんな気持ちにならないといけないのかわからない。
苦しくてもどかしくて……気持ちを持て余してしまう。
そのとき、足元を見ていなかった私は小さな石につまずいてしまった。
咄嗟に航くんの腕にしがみつくと、航くんは文句を言うことなく、「大丈夫か?」と口にした。
「ほら、足元暗いから、ちゃんと掴まっとけよ」
「……ごめん」
「謝らなくていい」
航くんが頑なに私の手を離そうとしないのは、私が今みたいに転ばないようにするためだったんだ……。
そう気づけば航くんの声が優しく感じて、全身が心臓になったみたいにドキドキする。
……こんなふうに優しくされたら、調子が狂う。