再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
時間を忘れそうになっていたとき、航くんが口を開いた。
「昔の話、してもいいか?」
「うん」
「ガキの頃にこんなふうに蛍を見たことがあってさ。今の仕事を選んだ理由とまでは言わないけど、この光景とかあのときのことが忘れられなかったんだろうな。空間とか照明に興味を持つきっかけになった」
「そうなんだ……」
なぜ航くんが今の仕事を選んだのか、彼と再会してからずっと疑問に思っていたことだった。
今まで聞く機会がなかったけれど、聞くことができて嬉しい。
「そのとき、紗菜もいたんだけど覚えてないだろ。“こんなキラキラのおうちに住みたい”って言ってた」
「えっ、そうなの? や、でも……蛍を見に行った記憶はうっすらとあるような……ちょっとすぐには出ないかな……」
頑張って記憶をたどるものの、すぐにははっきり思い出せそうにはなかった。
「だと思った。こーんなチビで脳ミソも小さかったからな」
「そんなに小さくありません!」
指先で小ささを示す航くんに突っ込みを入れると、彼は可笑しそうに笑った。
「それにしても、やっぱり自然の光が最高に綺麗だよな。どんなに頑張っても、この光景には勝てない」
不意に落ちてきた航くんの言葉が意外で、私は蛍の光から目を離し彼の顔を見つめる。
私の視線に気づいた航くんは私に視線を落とすと、「何?」と言った。
「航くんでも、勝てないなんて思うことがあるの?」
「当たり前だろ」
「意外! だって、航くんっていっつも自信満々の俺様なのに」
「なんだよそれ。言っとくけど、俺、すごく繊細だからな」
「嘘でしょ? ないない!」
笑い飛ばすと航くんは不満そうな表情を浮かべ、「信じろよ」と私の額を指で軽く叩いた。
「でも、たとえ勝てないとわかってても簡単に諦めたくはないし、少しでも近づきたいと思う」
「……うん。そんな想いを持ってるから、仕事にも一生懸命で真剣なんだよね。航くんらしいね」
航くんが仕事に対して真剣なことは、彼と再会してから近くで見てきてよくわかっている。
だから、彼の力になれるように私も頑張りたいと常々思っているのだ。