再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「仕事ももちろんそうだけど、諦めたくないものは他にもある」
「え?」
私の手を包み込む航くんの手に力がこもり、彼の真剣な表情に心臓が音をたてる。
吸い込まれてしまいそうなほどまっすぐ見つめられ、つい後ずさろうとしてしまうけれど、航くんはそれを許してくれない。
「それが何か、わかるか?」
どうしてそんなふうに見つめるの?
……どうしよう。胸が苦しくて、息がうまくできない……。
苦しさから逃れたくて、わからないと答えるように私は首を横に振る。
「相変わらず紗菜は鈍感だよな」
「そ、そんなことないもん」
「どうだか。じゃあ、“俺が諦めたくないもの”、車に戻るまでに考えといて」
拗ねた態度の私を見ながら航くんはそう言い、笑みをこぼして再び蛍の方へ視線を戻してしまった。
鈍感だと言われても、ヒントが少なすぎて答えは全然わからない。
考えたところで答えを間違えればきっと、航くんに笑われるだけだ。
そう気づいた私は答えが気になりながらも早々に考えるのをやめ、目の前に広がる光景を楽しむことにした。
その間も航くんとは手が繋がったままで、人目が気になる気持ちはあったものの、きっとここにいる人たちはみんな蛍に夢中だろうから誰も気づかないはずだ。
そう自分に言い聞かせ、彼のぬくもりを感じながら蛍を見ることに集中した。