鉄仮面女史の微笑みと涙
私と祥子ちゃんは大学入学直後から意気投合して、いつも一緒にいた
授業中も休み時間も放課後も、本当にいつも一緒だった
私達が大学二年生の時、アメリカの大学との交換留学生を選ぶための募集があった
私は留学するのが夢だったから迷わず応募した
祥子ちゃんは初めから留学する気はなかったので応募しなかったのだが、成績が良かった祥子ちゃんは先生の推薦枠で選考に参加することになった
「私は選ばれないよ。海青ちゃん、頑張って」
祥子ちゃんはそう言って私を応援してくれていた
でも内心、祥子ちゃんが選ばれるかもしれないとずっと思っていた
それだけ祥子ちゃんの成績が良く、先生にも好かれていたからだ
最終選考に残ったのは、私と祥子ちゃんだった
そして最後の面接の時に先生に言われた
「加山祥子さんが辞退したので、あなたに決定しました」
私はえ?と思って祥子ちゃんを問い詰めた


「何で辞退したの?」
「海青ちゃんも知ってるでしょ?私は始めから留学する気なんてないもん」
「じゃ何で最初から辞退しなかったの?」
「それは先生が……」
「辞退しなかったら自分が選ばれると思ったんでしょ?私が留学するのが夢だって知ってたもんね。だから私に譲ったつもりなんでしょ?そうして優越感に浸ってたんでしょ?」
「そんなことない!」
「もういい!祥子ちゃんなんて知らない!」


まだ子供だったんだと思う
でも、どうしても祥子ちゃんのおこぼれで選ばれたという風にしか思えなくて、祥子ちゃんと距離を置いた
祥子ちゃんは私に何回も謝ってきたが私は聞こうとしなかった
そしてそのまま留学して祥子ちゃんとはそれきり連絡も取らなかった



「あれは……私も悪かったから。先生に言って、最初から辞退すれば良かったんだよ」
「祥子ちゃんが留学しようと思わなかったのは、お母さんにこれ以上負担かけたくなかったからだよね?ちょっと考えれば分かった筈なのに……本当にごめんなさい」


祥子ちゃんのお父さんは、祥子ちゃんが小学生のときに亡くなり、お母さんは女手ひとつで祥子ちゃんとお兄さんと弟の3人を育てていた
だから大学も奨学金を貰って通っていた


「祥子ちゃん、お母さんは?」
「……私が娘を産んですぐに、突然亡くなったの」
「そう……」


私は大きく息を吐いて、改めて頭を下げた


「本当に、ごめんさない」
「もう、いいよ。何年前のこと言ってるの?」
「だって……」
「私はもうなんとも思ってないよ。奈南ちゃんにも言われたの『今の加納課長には友達が必要なんだよ?祥ちゃんは加納課長の友達なんでしょ?だったらそんな昔のこといつまでもウダウダ言わないの』って」
「奈南ちゃんって、進藤課長?」
「そう。奈南ちゃん、怒るとすごく怖いの」


そう言って祥子ちゃんは笑った


「祥子ちゃん、私のこと許してくれる?」
「……私の方こそ許してくれるの?海青ちゃん」


祥子ちゃんは自信なさげに俯いている
もう私は吹っ切って言った


「私は、またこうやって祥子ちゃんと会えたのが嬉しいよ」
「私も、海青ちゃんに会いたかった。慎一郎さんから海青ちゃんのこと聞いた時から、会いたくて……」
「じゃ、仲直りだね」


私がそう言うと、祥子ちゃんが私に抱きついた


「し、祥子ちゃん?」
「嬉しいよ〜。海青ちゃんと仲直りできた〜」
「もう、泣かないでよ。また私泣いちゃう」
「海青ちゃん、大好き〜」


私達はしばらくそんなやり取りをしていたら、インターホンが鳴った
どうやら皆川部長のご両親が、預かっていた祥子ちゃんの娘、祥希子ちゃんを連れてきたらしい
祥希子ちゃんは、どこからどう見ても皆川部長にそっくりで、とっても可愛かった
ご両親と一緒にお喋りしていると、私のスマホが鳴った
柳沢先生からだった
先生は話があるから事務所に来れないか?迎えに行くからと言った
祥子ちゃんにそう伝えると、行ってらっしゃいと送り出してくれた
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