鉄仮面女史の微笑みと涙
秘書室に入ると私が1人なのを不思議に思ったのか進藤課長が話しかけてきた
「加納課長、皆川部長は残ってるんですか?」
「はい。社長に、たまには取締役の仕事をしろって言われてました」
私がそう言うと秘書室のメンバーがクスクスと笑った
うちの会社は役員になると役員室があてがわれる
でも皆川部長は取締役に就任する時に『海外事業部に居てもいいのなら』という条件で取締役への昇進を受けたらしい
でも、あまり役員室に寄り付くことはなく、皆川部長の役員室のデスクの上は書類の山になっていると聞いたことがある
「じゃ、皆川部長は役員室に?」
「いえ、まだ社長室にいると思います」
「そう……」
進藤課長は不思議そうな顔をしていたが、私は海外事業部に戻ろうと、失礼しますと頭を下げた
私が秘書室を出ると、加納課長と呼ばれた
振り向くと進藤課長だった
さっきまでデスクに座っている進藤課長しか見ていなかったので分からなかったが、ほんの少しだけお腹がふっくらしているのが分かる
私はそれを見て、一瞬下唇を噛んだ
「加納課長?ごめんなさい、呼び止めて」
「いえ。なんでしょうか?」
「皆川部長に時々でいいから、ちゃんと役員室で仕事するようにお願いしてくれないかなと思って。頼まれてくれないかしら?」
「えっと、何故私に?」
「今までは私が言ってたんだけど、ほら、私あと半年ぐらいで退職しちゃうから……」
そう言ってお腹を撫でる進藤課長は本当に幸せせうで、また私は下唇を噛んだが、進藤課長に聞いてみた
「相川課長の方がいいのでは」
「ああ、ダメよ。皆川部長、相川課長の言うことなんて聞いてくれないから」
即否定する進藤課長がちょっと可愛らしかった
「本当に皆川部長頼まないと役員室で仕事してくれないから、秘書室も困ってしまって。ね、お願いできる?私の名前出してもらっても構わないから」
そう言って手を合わせながら私に頼む進藤課長を断れるはずもなく……
「……あの、皆川部長はどのくらいの割合で役員室行けば秘書室の皆さんは困らないのでしょうか?」
私がそう言うと、進藤課長はパァっと嬉しそうな顔をした
「欲を言えば週に1回だけど、2週間に1回来てくれれば本当に助かるわ」
「分かりました。努力してみます。皆川部長が私のお願いを聞いてくれるか分かりませんけど……」
「ううん、大丈夫よ。きっと加納課長の言うことなら聞いてくれると思うから」
「えっと、何故でしょうか?」
「う〜ん……勘?」
「えっ?」
私が驚いていると、進藤課長は吹き出した
「それもあるけど、加納課長は祥ちゃんの、皆川部長の奥さんのお友達だからよ」
「……でも、私はもう祥子ちゃんとは疎遠ですし」
「そうかもしれないけど、皆川部長は祥ちゃんに関わりのある人をぞんざいには扱わないから」
「そう、なんですか……」
祥子ちゃんは本当に大切にされているんだと思うと、俯いて下唇を噛んだ
すると進藤課長は私の手を握ったきた
私は驚いて顔を上げると、優しい笑顔の進藤課長がいた
「私のお願い聞いてくれてありがとう。今度、祥ちゃんと3人でご飯でも食べに行きましょう?」
「いや、でも……」
「この子が産まれる前に行きましょう?ね?約束よ?」
私が返事をできないでいると、秘書室から進藤課長を呼ぶ声が聞こえてきた
「進藤課長〜内線入ってますよ〜」
「は〜い。今行きま〜す。加納課長、またね」
進藤課長が秘書室に帰っていく
私は正直助かったと思った
だって、祥子ちゃんと進藤課長と3人で食事なんて……絶対実現する訳がない
だって、夫が絶対許してくれる訳がないし、私には祥子ちゃんに会いにくい理由があったから……
「進藤課長、申し訳ありません。ごめんなさい……」
私は階段を下りて、海外事業部へ戻った
「加納課長、皆川部長は残ってるんですか?」
「はい。社長に、たまには取締役の仕事をしろって言われてました」
私がそう言うと秘書室のメンバーがクスクスと笑った
うちの会社は役員になると役員室があてがわれる
でも皆川部長は取締役に就任する時に『海外事業部に居てもいいのなら』という条件で取締役への昇進を受けたらしい
でも、あまり役員室に寄り付くことはなく、皆川部長の役員室のデスクの上は書類の山になっていると聞いたことがある
「じゃ、皆川部長は役員室に?」
「いえ、まだ社長室にいると思います」
「そう……」
進藤課長は不思議そうな顔をしていたが、私は海外事業部に戻ろうと、失礼しますと頭を下げた
私が秘書室を出ると、加納課長と呼ばれた
振り向くと進藤課長だった
さっきまでデスクに座っている進藤課長しか見ていなかったので分からなかったが、ほんの少しだけお腹がふっくらしているのが分かる
私はそれを見て、一瞬下唇を噛んだ
「加納課長?ごめんなさい、呼び止めて」
「いえ。なんでしょうか?」
「皆川部長に時々でいいから、ちゃんと役員室で仕事するようにお願いしてくれないかなと思って。頼まれてくれないかしら?」
「えっと、何故私に?」
「今までは私が言ってたんだけど、ほら、私あと半年ぐらいで退職しちゃうから……」
そう言ってお腹を撫でる進藤課長は本当に幸せせうで、また私は下唇を噛んだが、進藤課長に聞いてみた
「相川課長の方がいいのでは」
「ああ、ダメよ。皆川部長、相川課長の言うことなんて聞いてくれないから」
即否定する進藤課長がちょっと可愛らしかった
「本当に皆川部長頼まないと役員室で仕事してくれないから、秘書室も困ってしまって。ね、お願いできる?私の名前出してもらっても構わないから」
そう言って手を合わせながら私に頼む進藤課長を断れるはずもなく……
「……あの、皆川部長はどのくらいの割合で役員室行けば秘書室の皆さんは困らないのでしょうか?」
私がそう言うと、進藤課長はパァっと嬉しそうな顔をした
「欲を言えば週に1回だけど、2週間に1回来てくれれば本当に助かるわ」
「分かりました。努力してみます。皆川部長が私のお願いを聞いてくれるか分かりませんけど……」
「ううん、大丈夫よ。きっと加納課長の言うことなら聞いてくれると思うから」
「えっと、何故でしょうか?」
「う〜ん……勘?」
「えっ?」
私が驚いていると、進藤課長は吹き出した
「それもあるけど、加納課長は祥ちゃんの、皆川部長の奥さんのお友達だからよ」
「……でも、私はもう祥子ちゃんとは疎遠ですし」
「そうかもしれないけど、皆川部長は祥ちゃんに関わりのある人をぞんざいには扱わないから」
「そう、なんですか……」
祥子ちゃんは本当に大切にされているんだと思うと、俯いて下唇を噛んだ
すると進藤課長は私の手を握ったきた
私は驚いて顔を上げると、優しい笑顔の進藤課長がいた
「私のお願い聞いてくれてありがとう。今度、祥ちゃんと3人でご飯でも食べに行きましょう?」
「いや、でも……」
「この子が産まれる前に行きましょう?ね?約束よ?」
私が返事をできないでいると、秘書室から進藤課長を呼ぶ声が聞こえてきた
「進藤課長〜内線入ってますよ〜」
「は〜い。今行きま〜す。加納課長、またね」
進藤課長が秘書室に帰っていく
私は正直助かったと思った
だって、祥子ちゃんと進藤課長と3人で食事なんて……絶対実現する訳がない
だって、夫が絶対許してくれる訳がないし、私には祥子ちゃんに会いにくい理由があったから……
「進藤課長、申し訳ありません。ごめんなさい……」
私は階段を下りて、海外事業部へ戻った