溺甘副社長にひとり占めされてます。
『すっ、すみません!』
宍戸さんと営業部の男性がほぼ同時に謝罪の声を上げ、慌て駆けて行く足音も響いた。
続けて聞こえてきたのは、苛立ちと呆れが混ざりあったため息だった。
ため息のあとに聞こえてきたのは、落ち着いた足取りで遠ざかっていく靴音。
私は静かに戸を開け、廊下をのぞき込む。
そこには、営業部の方へと向かって歩いていく白濱副社長の姿しかなかった。
何度も見ているはずの後ろ姿が、いつもと違って見えた。
冷たさを纏った背中だった。
+ + +
お昼休憩終了まであと40分。
自分のデスクにお弁当を広げてから10分ほどで限界を迎えてしまった私は、ふたを閉めたお弁当箱とステンレスボトルを抱え持ち、椅子から立ち上がった。
追いかけてくる冷淡な視線を振り切るように、急ぎ足でその場を後にする。
今の私には“逃げる”という選択肢しかなかった。
重い扉を開け、内階段へと出た。
上階の方へと視線をのぼらせてみたけれど、人の気配は感じられない。
私はやっと肩の力を抜く。ゆっくりと階段をのぼり始めた。
そして、踊り場から15階へと続く階段の中間地点で足を止め、そのまま腰を下ろした。