溺甘副社長にひとり占めされてます。
社内広報でそのことを知ってはいるが、所詮平社員の私には雲の上の話である。
『いろいろと、人手が足りていないと聞きました。何かお手伝いができたらいいな、なんて』
遠慮がちに申し出た宍戸さんに対し、白濱副社長が、ふふっと笑ったのが聞こえた。
『ありがとう。覚えておくよ』
『はい!』
『本当に、君は情報通だね……それって……いつもこうやって、仕事もせずにお喋りしてるから?』
自分が言われたわけではないのに、ギクリとさせられてしまった。
いつもよりもほんの少しだけ低くて、冷たくて……鋭い棘を含んでいる声。
苛立っているのが、扉越しでもはっきりと伝わってくる。
『あっ。あの。それは』
『君たちは、ここでいつまで油を売ってるつもりなのかな? 今は業務時間のはずだけど』
廊下の様子は見えないというのに、ついつい後ろを振り返り見てしまう。
声は白濱副社長本人のもの。
それは間違いないけれど、聞こえてくるのはまるで別人だ。
私の知ってる白濱副社長はおしゃべり好きで、気さくで、人懐っこくて、天真爛漫で、言い方は軽くても、その声はとても優しくて……。