溺甘副社長にひとり占めされてます。
村野さんと会場に戻ったあと、ずっと私は白濱副社長の隣にいた。
彼に婚約者と紹介されれば、有名企業の社長や、テレビで何度も見たことがある著名人から、「それはめでたい」と握手を求められることもあった。
煌びやかな世界の中で「ありがとうございます」とほほ笑み続ける私は、誰の目にも幸せな女性として映っていたに違いない。
しかし当の本人である私は、あまりにも緊張しすぎて、その間の記憶がほとんどなかったりする。
感じ良くしなきゃと必死に微笑み続け、そして、ヒールの高さがなかなか慣れず、転ばないようにと気を張り続けた。
パーティーが幕を閉じ、来客の最後のひとりを見送ったその瞬間まで、私はずっと緊張しっぱなしだったのだ。
やっと解放された時にはもう、夜の八時を回っていた。
放心状態でいると、「先に部屋で休んでいていいよ」と白濱副社長に苦笑いされた。
今日はもともと泊まる予定だった。彼から部屋を用意するからねと前もって言われていたためだ。
てっきり、着替えで通された3階のあの客室がそうだと思っていたのだけれど、彼に連れてこられた部屋は、今私がいるこの27階の客室だった。