溺甘副社長にひとり占めされてます。
数秒後、私は大きく息を吐き出した。焦り気味に深呼吸する。
そこに置かれているのは彼のボストンバッグだった。
今朝、ホテルに到着した時、ドアマンが緊張気味に運んでいた彼の荷物が、まさにそれだったのだ。
私ひとりでこの部屋に宿泊なら分不相応だけれど、もう一人この部屋に宿泊客が……しかもそれが副社長である彼だと言うのなら、話は別だ。
私はどうやら、今夜、彼と一緒にこの部屋に泊まるらしい。
ふたりっきり。朝まで一緒。どうしよう。
どうにかしたくても、彼はもうすでにここにはいない。もうどうすることもできない。
とりあえず彼を待つことに決め、どきどきしながらドレスを脱いで私服へと着替え、ソファーに座ってソワソワしながら扉が開くその瞬間を待っていたけれど……彼はなかなか部屋に戻って来なかった。
時間だけがのろのろと過ぎゆく。ソファーでぼんやりしていれば、徐々に眠くもなってくる。
そして夜の十時半を過ぎた頃、やっと私は彼が言った言葉を思い出したのだった。
俺を待たずに先に寝てていい。
それはきっと、部屋に戻るのが遅くなることを見越しての言葉だったのだろう。
しょんぼりしながらお風呂に入ったあと、先ほどまで身に着けていたドレスや靴をパジャマ姿で見つめていたら、急に不安になってきてしまった。
このまま寝ずに、彼が仕事を終えて戻ってくるのを待っていよう。
そう強く決意した……けど、だめだった。