溺甘副社長にひとり占めされてます。
せめて、私のことを苗字で呼んでもらえないだろうか。
ほほ笑む白濱副社長の顔を思い浮かべながら、彼が私をそう呼ばなければ、少しは事態が改善されるはずなのだと、自分の中で結論づけた。
ふいに、頭の中で人懐っこく笑っていた白濱副社長から、笑顔が消えていく。
代わって、冷めたような目つきに変わっていく。
ぞくりと背筋が寒くなった瞬間、キイッと扉が開いた音がした。なんとなく顔を向け、私はすぐさま視線をそらす。
15階の戸を開け階段へと出てきたのが、白濱副社長だったからだ。
すぐに顔をそらしたものの、私は失敗したと渋面になる。
顔を向けたのはほんの一瞬だったのに、持っていたファイルから視線を上げた白濱副社長としっかり目が合ってしまったのだ。
私のことなど気に留めず、そのまま副社長室のある16階へと向かってほしかったけれど……願い通りにはならなかった。
「美麗ちゃん! どうかしたの?」
隣に立ち、ニコニコ顔で私を見おろしている白濱副社長を見上げ、私は苦笑いを浮かべる。
「白濱副社長、お疲れ様です」
持っていたボトルや、膝の上のお弁当箱を慌てて退かした。
よろめきながらもなんとか立ち上がると、白濱副社長が私の肩をポンポンと叩いた。