溺甘副社長にひとり占めされてます。
備品室にトナーを取りに来ただけ。
そう続けるべく息を吸い込んだ瞬間、背後でエレベーターの開いた音がした。
続けて、「はい。わかりました」という女性の小さな声も聞こえてくる。
宍戸さんの目が私の向こう側へ向けられた途端、その表情が一変した。
笑顔が咲いた。嬉しそうに、輝きだしたのだ。
それを見て、私は気づいてしまった。
エレベーターから降りて、こちらにやってきているのが、誰かということに。
「その後ろ姿は、美麗(みれい)ちゃん!」
私の名を口にしたその”誰か”が、ポンと肩に手を乗せ、横から顔を覗きこんできた。
「ほらね。当たった」
思いの外、互いの顔が近かったこと。
そして何より、間近で見せられた彼の優雅な微笑みに、大きく鼓動が跳ねた。
頭の中が真っ白になってしまい、私は一拍遅れてから、その男性へと頭を下げた。
「……おっ、お疲れ様です。白濱(しらはま)副社長」
「お疲れ様。美麗ちゃんの顔を見るの久しぶりだな。うーん。なんでかなぁ……ねぇねぇ、ちゃんと会社に来てる?」
「もっ、もちろんです! 休まず出社しています!」
笑顔で痛いところをついてきた白濱副社長の手をさりげなく押しやりながら、少しずつ、彼との距離をあけていく。