溺甘副社長にひとり占めされてます。
「遥子ちゃん、具合悪いんだって。無理させられないから、彼女に代わってもらうことにしたから。彼女、総務課の館下美麗ちゃん。こき使ってあげて」
「えっ!」
「ん?」
目の前にやって来た、少しの乱れもなくきっちりと髪を後ろで結い上げている秘書の女性に、よろしくお願いしますと言おうとしたのだけれど、最後にさらりと付け加えられた「こき使ってあげて」という一言に思わず目を見開き、彼を見上げてしまった。
しかし彼は、持っていた封筒を彼女に手渡してから、“なにか?”といった様子で私ににっこり微笑みかけてくる。
そんな顔をされたら、文句が言い辛い。
秘書の女性は、副社長と私のやり取りに、終始苦笑いを浮かべていた。
「代わりの方に来てもらえて、良かったです。館下さん、よろしくね」
「はっ、はい!」
「それじゃあ、早速だけど……」
歩き出した秘書の女性について行こうとした瞬間、再び、副社長に腕を掴まれた。
そのまま彼へと引っ張られ、気が付けば、私は彼の腕の中にいた。
「彼女、ガッツがあるから、使い勝手良いと思うけど。いじめちゃダメだからね。絶対に」
私を簡単に包み込んでしまうその身体の大きさ。後ろから優しく抱き締めてくる両腕の力。耳元で発せられる声は、甘くて、くすぐったい。