溺甘副社長にひとり占めされてます。
白濱副社長から、身動きが取れなくなった私へと視線を落とし、秘書の女性がため息をつく。
「念を押さなくても大丈夫です。私たち秘書チームは誰も、そんなこと恐ろしくてできませんから」
「うん。だったらよろしい」
返答に満足したらしい。白濱副社長は私から腕を解き、またスマホを手に取った。
ふらふらしながら一歩二歩と前進し、私は秘書の女性の隣に並ぶ。
「気に入られちゃって、あなたこれから大変ね」
「えっ!?」
「私、深野(ふかの)と言います。さ、行きましょう。ついてきて」
「はい! 深野さん、よろしくお願いします!」
歩き出した深野さんに続いて、私も歩き出す。
先ほど白濱副社長と話をしていた男性へと深野さんが軽く頭を下げたのに続いて、私も同じようにお辞儀をしたけれど、顔をあげ、思わず息をのんだ。
男性が不機嫌な様子で私をじろりと睨みつけてきたからだ。
話をしていたところを邪魔してしまったから、怒っているのかもしれない。
申し訳なさと気まずさで、私は早々に顔を前へと向ける。
スピードを落とすことなく、急ぎ足でその場を通りすぎたのだった。
+ + +
男性が前面にあるプロジェクタースクリーンの調整をしている様子を横目で見ながら、私はコの字に並べられた机の上に、資料やお茶のペットボトルを並べ置いていく。