溺甘副社長にひとり占めされてます。
近いようで、遠い存在なのに……勇気を出して手を伸ばせば、彼が私の手をしっかりと掴み取ってくれるような、そんな風にも思えてしまう。
「……頑張って」
私は頬笑みを浮かべて、彼に囁きかけた。
+ + +
会議はお昼を挟み、夕方までかかった。
疲れ顔の参加者を見送ったあと、私は藤田さんと共に会場の片づけをし、従業員用に控室でほんの数分の休憩を挟んでから、本社に戻ってきた。
ファイルと自分のバッグを持ち直しながらエレベーターに乗りこむと、14階で男性がひとり乗りこんできた。
少し青ざめ、薄っすらと汗をかいているその男性は、私たちの姿を見ると、軽く頭を下げてきた。
もちろん私も、すぐに頭を下げ返した。顔に見覚えはある。営業部の部長、名前は確か、三宅さんだ。
尋常じゃない様子にどうしたのだろうかと、藤田さんと顔を見合わせた。
彼の行く先も、私たちと同じだった。共に16階でエレベーターを降りた。
16階には社長室、副社長室、それから秘書室がある。自分とは縁のない階だと思っていたから、なんだか緊張してしまう。
厳かな雰囲気が漂う廊下を進んでいると、副社長室から白濱副社長が出てきた。
そして、私たちの方を見て目を眇めた。
「これはやばい。館下さん、早く」