嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
社長は五十代半ばとは思えないほど、若々しくてエネルギッシュな人だ。
現場にも積極的に足を運び、ときには職人さんにまじって仕事をすることも少なくない。

社長が率先して動くから、社員も自然と手を抜けなくなる。
それがいい相乗効果になり、会社全体も活気に満ち溢れていた。

社長の口癖は『若いもんには絶対に負けん!』だ。
今のところ、その言葉通り社長に勝てる社員はいないと思う。

「うん、行けるよ」

「そうか。やっぱり桜井がいないとつまらないからな」

新庄くんはいつもの調子で笑った。
そんなことをさらっと言われたら、変に意識してしまうからやめて欲しい。
彼にとっては、何気ない一言だったと思うけど。

新庄くんは、私が弱音を吐ける数少ない相手だ。

入社したばかりの頃――。
私は右も左も分からず、毎日緊張しっぱなしで、ミスが続いていた。
ある日、電話対応していると、取引先の相手から専門用語を次々と並べられ、頭の中が真っ白になり、どう答えていいか分からなかった。

『お前じゃ話にならないから、分かる人に代わってくれ』

呆れたような声を聞き、情けなさでいっぱいになる。
慌てて、近くにいた先輩に電話を代わってもらうと、落ち着いて対応してくれ、相手の人はすぐに納得したようだった。

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