嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「次に太田さんのお節介がさく裂する前に、できれば麻里奈は好きな人とか彼氏を作っておいた方がいいかもね」

彼氏を作る、か……。
私は北見さんの言葉に苦笑いし、小さくため息をついた。

こっちが落ち着きを取り戻した頃、社長の大きな声が響いた。

「新庄、お前の結婚式は俺がスピーチしてやるからな」

「いつになるか分かりませんが、そのときはよろしくお願いします」

はっと息をのんだ。
新庄くんの何気ない返事に胸が締めつけられた。

「じゃあ、俺らは歌でも歌うか」

「おー、いいねぇ。なんなら踊りもつけた方がいいんじゃねぇか?」

周りでは、新庄くんの先輩たちが口々に盛り上がっている。

「腹踊りだけは止めてくださいよ」

「新庄、それはフリか?」

「いや、全然フリじゃないですよ」

「仕方ねぇ。俺らで見事な腹踊りしてやるよ」

「だからフリじゃないですから!」

先輩たちにからかわれ、新庄くんの嫌そうに突っ込む。

「なぁ、人前にその腹を晒すならもう少し痩せた方がいいんじゃねぇのか?」

「なに言ってるんだよ! 貫禄ある腹の方が腹踊りには適してるんだよ」

「確かにな」

一段と大きくなる笑い声。
その輪の中心にいる新庄くんを見て、ため息をついた。
もしかして、私も同僚として呼ばれるんだろうか。
素直に祝福してあげれる自信はない。

これ以上考えたくなくて、ビールのジョッキに手を伸ばした。

< 20 / 103 >

この作品をシェア

pagetop