嘘をつく唇に優しいキスを

「桜井の腹は正直だな。飯、食うだろ?」

恥ずかしさで小さく頷けば新庄くんはクスリと笑う。

「洗面所はこの部屋を出て右にあるから勝手に使って」

そう言ってキッチンへと足を向けた。

ベッドから降りようとした時、ハッと自分の身体を見た。
もしかして……なんて変な考えが頭を過った。
だけど実際には、服を着たまま寝ていてシワになっているだけだった。

一瞬でも“一夜の過ち”があったかもと考えた自分が恥ずかしい。
新庄くんに限ってそんな間違いは起こさないだろうけど。

今、何時かな。
周りを見回しても、この寝室には時計はない。
私のバッグがベッドの下にあるのが目に入った。

きっと新庄くんが持ってきてくれたんだろう。
そのバッグをあさり、スマホを見ると九時十分と表示されていた。

九時って……。
私は人様の家でどんだけ寝ていたんだろう。
新庄くんのことを呑気だと思っていたけど、自分も大概だなと呆れてしまう。

寝癖が付いているであろう髪の毛を手櫛で直しながらため息を吐く。
寝起きのボサボサ頭を新庄くんに見られているので、今さらと言えば今さらだけど。

ふと、さっきまで自分が寝ていたベッドに視線を向ける。
無神経にベッドまで貸してもらっていたことに居たたまれない気持ちになる。

だって新庄くんには……。
あー、もう!嫌な思考を振り払うように両頬を手で軽く叩き寝室を出た。
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