嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「麻里奈、ちょっと待って。家まで送っていくから車に乗って」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。電車で帰りますから」

旦那さんが迎えに来てくれたのに、そこまでしてもらうのは申し訳ない。
それに、北見さんとは帰る方向も違う。

「遠慮しないでよ」

「でも……」

どう断ろうか考えていたら、突然、私たちの会話に割って入る人がいた。

「北見さん、俺が桜井を送るんで大丈夫ですよ」

声の主は新庄くんだ。
さっきまで、二次会へ向かう男性陣の中にいたはずなのにどうしたんだろう。

「あれ、新庄くんじゃない。二次会は?」

北見さんが不思議そうに尋ねる。

「明日、予定があるから一次会で帰ります。先輩たちには、二次会の店の場所を教えて戻ってきました」

新庄くんはいつもと変わらない様子で答えた。

「そうなのね。新庄くんが送ってくれるなら、私も安心して麻里奈を任せられるわ。よろしく頼むわね」

「はい、分かりました」

「麻里奈、そういうことだから新庄くんに送ってもらいなよ。じゃあ、また来週ね」

北見さんは微笑みながら軽く手を振ると、旦那さんの待つ車へ向かって歩いていった。
気づけば、私と新庄くんだけがその場に残されていた。
どうしよう……。

このまま一緒に帰ることになってしまうんだろうか。
あの結婚話を聞いたばかりで、冷静に話ができる自信がない。

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