嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
胸のざわつきを押さえ、意を決して口を開く。

「新庄くん、北見さんはああ言ったけど、私は電車で帰れるから。わざわざ声をかけてくれてありがとう。お疲れさま」

早口で言い切ると、この場から逃げたい一心で足を踏み出した。

「待てよ」

すぐに腕を掴まれる。

「……離して。ひとりで帰れるから」

「離さない。ひとりで帰すわけないだろ。いいからおとなしく言うことを聞け」

有無を言わさず、私の腕を掴んだまま新庄くんは歩き出す。

「ちょ、ちょっと、新庄くん?」

こんな強引な新庄くんは初めてで、戸惑いを隠せない。
どうして、今日に限ってそんなことをするの?
いつもと違う態度に心が乱され、鼓動が速くなる。

腕も振り払えない上、新庄くんは足を止める気配すらない。
いろいろ疑問は残ったけど、抵抗しても無駄だと諦めた。
黙って歩いていると、やがてコインパーキングに着いた。

「乗って」

助手席のドアが開けられ、促される。
乗ってって……新庄くんが運転するつもりなんだろうか。

「いや、あの、飲酒……」

「今日は酒は一滴も飲んでない」

「えっ、新庄くんお酒好きなのに?」

いつもなら、飲み会では必ず飲んでいたはずだ。
それに、飲み会のときは電車で来ていた。
そんな新庄くんが、今日に限ってお酒は一滴も飲んでないってどういうことなんだろう。
違和感が残る。

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