嘘をつく唇に優しいキスを
「俺も聞きたいことがある」
真面目な表情になり、私に鋭い視線を投げかけてきた。
新庄くんのこんな顔は初めて見るので、なにを言われるのか身構えた。
「男を紹介してもらうんだって?」
「えっ、どうしてそれを」
「太田さんたちと話してたのが聞こえたから」
その言葉にハッとする。
確かに紹介してもらう話はあったけど、それはなくなった。
そのことは聞こえてなかったのかな。
だったら正直に『その話はなくなった』と言えば済む話。
だけど、私はそれを言うことを戸惑っていた。
どうしてかは分からない。
幸せそうな新庄くんに対抗意識が芽生えたのか、紹介してもらう話がなくなったなんて言って同情されるのが嫌だったのか……複雑な感情が入りまじる。
私は一呼吸置き、口を開いた。
「そうなの。三十歳の商社マンだって。どんな人なのか楽しみにしているんだ」
わざと明るく笑顔で言った。
「……へぇ、そうか」
新庄くんの纏う空気が冷たくなり、機嫌が悪くなったような気がした。
だけど、それは私の気のせいだったみたい。
「上手くいくといいな」
そう言って笑みを浮かべていたから……。
私はその言葉に絶望を感じた。
新庄くんにとっては私のことを思ってのことだと思う。
分かっていたけど、胸が張り裂けるぐらい辛かった。
自分の気持ちを誤魔化し、嘘をついて私に残ったものは惨めの一言だけだった。