嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「そんなことはいいから、早く乗って」

軽く背中を押され、促されるまま車に乗り込んだ。
私はシートベルトをしめたあと、シートに背中を預ける。

エンジンがかかり、ゆっくりと車が走り出す。
新庄くんの車に乗るのはいつぶりだろう。

彼女がいると知った日から、二人きりで乗るのは避けていた。
残業したとき『送る』と言われたことがあっても、なにかと理由をつけて断っていた。
さすがに、浮気を疑われるようなことはするべきではない。
それなのに、こんな形でまた新庄くんの車に乗ることになるなんて思ってもいなかった。

カーオーディオから流れてきたのは、少し前に流行った男性アーティストのラブソング。
男性が恋人に愛を語りかけるような歌詞で、今の私には不似合いな曲だ。

気づかれないように、小さくため息を吐く。

いつになるか分からないと言っていたけど、新庄くんは結婚するんだ。
だったら私も、自分の気持ちに嘘をつくことをやめて、早くこの想いを断ち切らないといけない。
いつまでも、新庄くんを好きなまま立ち止まっていてはダメなんだと、改めて気づかされた。

「そういえば、どうしてお酒飲まなかったの?」

いつもなら冗談を言い合ったり、くだらないことで笑い合ったりするけど、今日は新庄くんと一緒のテーブルで飲むことはなかった。
席の移動のチャンスはあったけど、あんな話を聞いたあとでは、どうしても普段通り振る舞える気がしなかった。

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