嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「桜井、悪いけどこの資料を一部ずつまとめといてもらっていい?」
そう声をかけてきたのは、営業の新庄湊だ。
新庄くんは、たったひとりの私の同期。
うちの会社は中小企業で、毎年新入社員が入るわけではない。
そのため、私たちが入社したとき、席は部署関係なく空いている場所に振り分けられた。
結果として、総務の私と営業の彼が隣同士で座っている。
新庄くんは切れ長の一重で目つきが鋭く、黙っていると少し威圧感があって怖そうに見られがちだ。
だけど、実際の彼はよく喋るし、顔を合わせれば、なにかしら私をからかってくる。
整えられた短い黒髪は清潔感があり、学生時代はサッカーをしていたらしく、体つきもしっかりしていた。
いつもは作業服なのに、今日は珍しくスーツを着ていて、見慣れない姿にドキッとする。
それを誤魔化すように、口を開いた。
「それはいいけど、貸しだよ」
「うっ……、めちゃくちゃ不本意だけど仕方ない」
新庄くんは大げさに肩を落としてため息をつく。
その様子がおかしくて笑ってしまう。
「会議の時間が早まって、今から営業先に行かなくちゃいけなくなったんだ」
そう話す新庄くんは少し早口で、急いでいるんだろうなというのがうかがえる。
「あー、なるほどね」
ルーティンワークの多い内勤の総務とは違い、営業は仕事量が圧倒的に多く、いつも忙しそうに動き回っていた。